2016年2月11日木曜日

宇宙の大きさについて

前回はwebユーザーが宇宙のことをどれだけ知らないかを認識して愕然としたので、今回は一般人にも面白い話を目指します。

宇宙の大きさってどれくらいだと思いますか?

137億光年という大きさを聞いたことがある人がいるかもしれません。
でも、実は宇宙の大きさはわかっていません。有限か無限かすらもわかっていません。

137億光年とは、「観測可能な宇宙の大きさ」といわれるものです。
宇宙の年齢も137億年ぐらいなので、光が137億年かけて届く距離よりも遠いところの情報はまだ届いていないのです。

確実に言えるのは、少なくとも137億光年よりも大きいということです。

下の図は、 Wikipedia に掲載されている宇宙の全体像を対数スケールで示した図です。
この円の外側は観測できないのでどうなっているか全く分からないのです。


"Observable universe logarithmic illustration" by Unmismoobjetivo - 投稿者自身による作品. Licensed under CC 表示-継承 3.0 via ウィキメディア・コモンズ - https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Observable_universe_logarithmic_illustration.png#/media/File:Observable_universe_logarithmic_illustration.png

(※ちなみに、上の図では地球が中心に描かれていますが、地球が宇宙の中心なわけでもなんでもないので気を付けてください。光が届く範囲が自分を中心とした球状であるというだけであって、その外側まで考慮した場合に中心というものがどこにあるのか、そもそも中心というのが存在するのかすら、知るすべはありません。)



でも、ちょっと待ってください。



宇宙は約137億年前にビッグバンで誕生し、それ以来膨張を続けてきたという説が観測により裏付けられています(ハッブルの法則)。
宇宙は常に大きさが変化しているのです。
では、137億光年という「観測可能な宇宙の大きさ」とは、いったいいつの時点での大きさなのでしょうか。

(1) 光が発せられた時点(約137億年前)
(2) 光が到達した時点(現在)

どちらだと思いますか?

実は…「どちらでもない」が正解です。

光が発せられた時点とは、ビッグバンの余熱が十分に冷えて見通せるようになった時点であり、その時点では距離は4100万光年程度しか離れていませんでした。その地点は宇宙の膨張の結果、現在は450億光年のかなたにあります。(これらの数値を「固有距離」といいます。)

では、137億光年というのは何の距離なのでしょうか。実はこれは光がそれだけの道のりを旅してきたというだけであって、物理的に何かの大きさに対応しているわけではありません。(この距離を「光行距離」といいます。)

さらに面白いことに、宇宙の膨張のスピードが光のスピードよりも速かった時期があります。光よりも速く動くものは存在しませんが、空間自体が膨張する速さは光速を超えても相対性理論とは矛盾しないのです。不思議ですね。

でも、空間が光より早く遠ざかってしまうのなら、その光は地球にはいつまでたっても到達しないのではないか?という気がしますよね。そうしたら現在WMAPなどの衛星によって観測されている宇宙背景放射というのはなくて、宇宙の背景は真っ黒なはずです。



これは蟻とゴム紐のパラドックスと言われている問題で説明できます。それは次のような問題です。

ゴム紐の上を、一方の端から他方の端に歩いている蟻を想像してください。蟻が歩き始めると同時に、ゴム紐を蟻の歩く速さよりはるかに速い速さで伸ばしていったとき、果たして蟻は反対側の端にたどり着くことができるでしょうか。ただし、ゴム紐の伸びる速さは一定で、無限に伸びるものとします。


直観的には、永遠にたどり着けないような気もしますが、実はこの蟻はいつか必ず反対側にたどり着きます。

これを理解する一つの方法としては、まずゴム紐に一定間隔のマーカーをたくさんつけてみます。


ゴム紐が伸びると、マーカーの位置は端からの距離に比例した速さで移動します。マーカーの間隔が一定であれば、隣り合うマーカーの距離が離れていく速さも一定であるということに注目してください。


マーカーの間隔を十分細かくすれば、最初のマーカーが移動する速度は遅くなり、少なくとも最初のマーカーには蟻の速さでも追いつけるようになるはずです。

さて、こうして最初のマーカーにたどり着いたら、2番目のマーカーにたどり着けるかを考えてみましょう。マーカー同士の離れていく速さは一定なので、出発地点から1番目のマーカーまでの間隔が離れていく速さと、1番目から2番目のマーカーの間隔が離れていく速さは同じです。つまり、蟻の速さでも2番目のマーカーにたどり着けるはずです。(距離は伸びているので、その分時間は余分にかかりますが。)

他のすべてのマーカーについても同様に考えると、蟻はいつかは反対側の端にたどり着けることがわかります。

この話で感覚的に考えてしまうと見落としがちなのは、蟻が歩いている媒体自身が伸びているという事実です。これがもし地面を歩いている蟻であれば、決して反対側にはたどり着けません。


さて、ここで「蟻」を「光」に、「ゴム紐」を「空間」に置き換えてみましょう。
空間が光速よりも速く膨張しているとしても、光が届かないということにはならない、ということは納得していただけましたか?
(実際には赤方偏移が起き、エネルギー密度が低下するため、検出は難しくはなりますが。)

また、137億光年という長さは、上のたとえ話でいうと、蟻が歩んだ道のりの長さであって、蟻が歩き始めた時点でのゴム紐の長さでもなければ、反対側に到達した時点でのゴム紐の長さでもない、ということは納得しやすくなるのではないでしょうか。


このように、現在考えられている宇宙のモデルはきわめてダイナミックで変化に富みます。アインシュタイン自身ですら、宇宙は定常的で変化しないと考えていた時期がありますが、そんなものは人間的常識にとらわれた思い込みというものです。今回の話はまだほんの序の口のようなものですが、人間の目が今まで届いていなかったところに人間の常識が通用しないことなど、物理学ではいくらでも出てきます。まさに現実は小説より奇なりといったところです。前回のような似非科学に頼らなくても、正しく理解するだけで現実は十分面白いのです。



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